2009年5月26日 (火)

瀬名秀明氏による『SM博物館』書評

ちょっと古い情報ですが、季刊『真夜中』NO.5(リトルモア)に『SM博物館』の書評が掲載されています(44頁)。昨年8月に河出i文庫から出た本書ですが、紙媒体での書評はひょっとしたらこれが初めてではないでしょうか(他にご存知の方いたら、教えていただけると有り難いです)。※追記:記事をアップしてすぐ、自分で書いた石川誠壱さんの記事に気がつきました……。初めてではないですね。

書評の執筆者は、作家の瀬名秀明氏。アンソロジー『贈る物語 Wonder』(光文社文庫)に「窓鴉」を選ぶなど、式貴士のファンで知られています。雑誌の特集「からだ、あります。」に合わせて、書評も「からだブックガイド」となっており、瀬名氏のコーナーは「私たちのすべて」と題して3冊の本が紹介されています。

手:眉村卓「美しい手」(角川文庫『変な男』所収)
腹:蘭光生『SM博物館』(河出i文庫)
細胞:古谷美央、アイカム 著、中畑龍俊 監修『iPSって、なんだろう』(アイカム)

『SM博物館』の項目が「腹」なのは「切腹」の章を中心に取り上げているためで、蘭光生の別名が式貴士や間羊太郎であることに触れた後、「正直いって蘭光生名義の小説はどうも好みでないのだが、(中略)まさに間羊太郎名義の名著『ミステリ百科事典』と表裏を成す一冊」と書かれています。本当に、『ミステリ百科事典』読者や式貴士ファンなら興味深く読めると思いますので、これを機に『SM博物館』に手を伸ばす人が増えると嬉しいです。

季刊 真夜中 No.5 2009 Early SummerBook季刊 真夜中 No.5 2009 Early Summer

販売元:リトル・モア
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SM博物館 (河出i文庫)BookSM博物館 (河出i文庫)

著者:蘭 光生

販売元:河出書房新社
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贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに (光文社文庫)Book贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに (光文社文庫)

著者:瀬名 秀明

販売元:光文社
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2009年4月15日 (水)

富士霊園へ墓参に行ってきました

先週の土曜日(4月11日)、作家の館淳一さん、当時蘭光生の担当をされていた編集者お2人の計4人で、富士霊園へ墓参に行ってきました。文章はあとで追記しますが、先に写真だけアップします。

Fuji03
●「文学者の墓」入り口。場所は、霊園内の見晴らしのよい高台です。

Fuji02
●式貴士の墓碑。著者本人が選んだ作品『虹のジプシー』と一緒に名前が刻まれています。ここ数年に復刊することが出来た『ミステリ百科事典』、『怪奇小説コレクション カンタン刑』、『SM博物館』を供えてきました。

Fuji04
●「文学者の墓」の趣旨について書かれた石碑。多くの出版社の協賛によって建設されたようです。

Fuji05
●一番古い墓碑です。菊池寛を筆頭に、錚々たる作家の名前が刻まれています。

Fuji06
●当日は桜が満開でした。富士霊園は桜百選にも選ばれている桜の名所だそうです。

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2008年9月22日 (月)

石川誠壱さんによる『SM博物館』特集

石川誠壱さんから、9月16日発売の「ニャン2倶楽部」11月号(コアマガジン)にて『SM博物館』を取り上げたと連絡いただきました。石川さんが担当しているレギュラーコーナー「こちら熟女捜索隊」丸々2ページ使っての特集です。掲載誌「えろちか」の図版なども使われています。

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紙媒体で本書について書かれているのを見かけたのは、「本の雑誌」10月号(現在発売中)の編集後記だけでしたので、本格的な書評はこの石川さんの特集がおそらく初めてではないでしょうか。雑誌のカラー的にもピッタリだと思います。エロ投稿がメインのちょっと(かなり?)ハードルの高い雑誌ですが、ぜひチェックしてみて下さい。

PS もし、他の雑誌で『SM博物館』が取り上げられているのを見たら情報お寄せ下さい。

●「ニャン2倶楽部」11月号・アマゾンリンク
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001EXRDY8/

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2008年8月26日 (火)

『SM博物館』の秀逸な書き出し

蘭光生『SM博物館』の発売から3週間余り経ち、出足は好調と編集者の方から伺っています。蘭光生ファンやこの手のジャンルに興味のある方に手にとっていただけているようで、嬉しい限りです。

今回は、各項目の書き出しをご紹介します。これが非常に秀逸で、冒頭から読者をつかむ魅力的な文章になっているんです。個人的には、「鞭」の書き出しが好きですね。ジャンル外の人にも読んでもらおうと、著者が拘って書いていたことが窺えます。

来月に入ると、文庫の新刊コーナーから姿を消してしまいますので、興味のある人は早いうちに書店で探してみてください(大きな書店の新刊コーナーには、大抵置いてあると思います)。

●「猿ぐつわ」(※厳密には「布」の項)
 

 釣道楽のマニアの言葉に「釣りは鮒釣りに始まり鮒釣りに終る」というのがある。その昔、「風俗草紙」に『猿轡雑考』を書かれた高月大三氏にお会いしていた時、氏はこんなことをいわれた。「猿ぐつわは豆しぼりの手拭に始まり、豆しぼりの手拭に終る」と。

●「鞭」

 本格ミステリー小説の醍醐味はやはり<密室>にあるように、本格のSM小説にとってかかせないものは<鞭>だろう。

●「浣腸」

 “失神小説”という名称がある。これ式にいうと、いまや隠れたベストセラーの団鬼六の『花と蛇』は、さしずめ“浣腸小説”ということになりそうだ。

●「切腹」

 SMの行きつく所は“死”である。
 この意味で、世界に類を見ない、日本独自の奇妙な風習<切腹>は、SMの極致であるともいえよう。

●「磔(はりつけ」
 

 その昔、罪人は地面に打たれた杭に四肢を固定され、釘で打ち殺されたという。
 やがて、衆人にさらしやすくするためか、木や板などにはりつけられ、投石で打ち殺されるようになったといわれる。

●「褌(ふんどし)」

 三島由紀夫が割腹自殺を遂げた時、軍服の下には六尺褌一つしか身につけていなかったという。
 三島の褌フェティシズムは有名であった。その彼に、いかにもふさわしい死装束であったといえる。世に<浣腸>マニアが存するように、<褌>マニアというものがある。

●「縄」

 縄——SMファンにとって、なんという快い響きをもつ語だろうか。限りない夢と郷愁。現実と空想の世界をつなぐ唯一にして最大の媒体。
 縄なくしてサドもマゾもあり得ない。SMの世界を束ねる要であり、SMの世界に達する原点にこの<縄>がある。

SM博物館 (河出i文庫 ら 1-1)BookSM博物館 (河出i文庫 ら 1-1)

著者:蘭 光生

販売元:河出書房新社
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2008年8月 1日 (金)

蘭光生『SM博物館』の見本が届きました

河出書房新社さんから『SM博物館』の見本が届きました。前の記事で書き忘れましたが、私は新保博久さんと一緒に編集協力というかたちで関わらせてもらい、主に本文の校閲を担当しています。

Smobiari02_3

カバーがお洒落に仕上がっていて、三崎書房版とは全く違った印象の本になっています。カバーの写真は、廣木隆一監督のドキュメンタリー映画『縛師(ばくし)』とコラボしているようで、モデルは女優の山田キヌヲさんという方です。

解説は、作家の館淳一さんが書かれています。とても素晴らしい内容で、蘭光生はちょっと……という式貴士ファンの方にも、ここだけは是非読んでいただきたいです。著者のあとがきも再録されていますので。

来週の8月6日(水)に、河出i文庫から発売です。価格は1050円と文庫としてはかなり高めですが、ぜひ手にとってみてください。一足お先に目次をご紹介します。目次を見ると、『ミステリ百科事典』のSM版というのが良く分かるのではないでしょうか。

『SM博物館』目次
※【】内の数字は、実際はローマ数字です

猿ぐつわ
【1】布
【2】紐・縄・針金
【3】皮革
【4】金属・合成樹脂
【5】棒・竹
【6】その他


【1】鞭うちのスタイル
 1、鞭うちの体位 2、鞭うち用の固定具 3、鞭うちマシン
【2】鞭の効用
 1、鞭うちの反動の利用 2、心理的な反応
【3】鞭の用途
 1、罰する 2、処刑する 3、責める 4、追いたてる 5、調教する 6、いたぶる 7、辱しめる 8、美容
【4】鞭の種類
 1、皮革 2、縄 3、ゴム 4、竹 5、木材 6、鉄 7、その他

浣腸
【1】浣腸器の種類
1、イチジク浣腸 2、ガラス製浣腸器 3、エネマ・シリンジ 4、イルリガートル
【2】浣腸器のさまざま
1、注入液 2、分量 3、体位 4、浣腸プレイ
【3】浣腸器の心理
1、苦痛 2、忍耐 3、羞恥 4、凌辱

切腹
【1】マゾヒズム
1、悲愴美 2、エクスタシー 3、遺恨 4、贖罪 5、ナルシズム 6、男性願望 7、マゾヒスト
【2】サディズム
1、エロティシズム 2、エキゾティシズム 3、サディスト
【3】雑
1、用器 2、刀の握り方 3、切り方 4、所用時間 5、切腹の実験

磔(はりつけ)
1、十字型 2、X字型 3、大字型 4、人字型
5、土字型 6、O字型 7、I字型 8、無定型

褌(ふんどし)
【1】男が褌をしめる
1、少年褌美 2、成人褌美 3、褌と男色 4、褌と拷問 5、褌と切腹 6、褌と刺青 7、褌マニア
【2】女が褌をする
【3】女に褌をさせる
【4】女相撲
【5】変形褌(貞操帯他)


A、吊り
【1】吊り
1、両手を吊る 2、髪の毛で吊る 3、鼻で吊る
【2】宙吊り
1、両手の宙吊り 2、手足の宙吊り 3、髪の毛の宙吊り 4、胸・胴体の宙吊り 5、全身で宙吊りにする
【3】逆吊り
B、縛り
【1】縛り
1、縛りとその心理 2、海老縛り 3、あぐら縛り 4、股間縛り
【2】縛りつける
1、柱に縛りつける 2、椅子に縛りつける 3、テーブルその他

あとがき
解説 蘭光生「SM博物館」の時代 館淳一

●書籍情報
蘭光生『SM博物館』
河出i文庫/8月6日発売/408頁/本体1000円+税

●関連リンク
河出書房新社の紹介ページ
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309481739

映画『縛師』公式サイト
http://www.baku-shi.com/

SM博物館BookSM博物館

著者:蘭 光生

販売元:河出書房新社
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2008年6月19日 (木)

蘭光生『SM博物館』が復刊されます

今年は『カンタン刑』(光文社文庫)の他に、別名義の著作が出ますと以前少し書きましたが、ようやくお知らせできることになりました。蘭光生名義の著作『SM博物館』が、8月に河出i文庫から刊行される予定です。

『SM博物館』は、1972年に三崎書房から発売された書籍で、蘭光生名義としては珍しい小説以外の著作になります。内容は、「猿ぐつわ」「鞭」「縄」といったSMでお馴染みの小道具が、SM小説の中でどのように使われているか分類・考察したもので、『ミステリ百科事典』(間羊太郎)のSM版みたいな本です。基本的には、昔のSM小説ファンや、ポルノ作家・蘭光生のファン向けの本になりますが、「切腹」「磔(はりつけ)」といった項目もありますので、桐生操氏の著作や『死刑全書』みたいな本に興味のある方であれば、面白く読めると思います。

初刊本は古本屋にもあまり出回っておらず、蘭光生ファンでも持っている方はほとんどいないはずです。貴重な復刊ですので、発売の折には是非チェックしてみてください。

発売が近づいたら、改めて詳しい内容紹介を行う予定です。

●発売情報
蘭光生『SM博物館』
河出i文庫より、8月刊行予定(価格は未定)

●河出i文庫の一覧(河出書房新社サイト内)※本書の情報はまだ掲載されていません
http://www.kawade.co.jp/np/search?mgen_id=97

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2008年5月28日 (水)

「日本SF全集」に式貴士の短篇収録

少し前の話ですが、出版芸術社のサイトに『日本SF全集』(日下三蔵・編)の情報が公開されています。「日本を代表するSF作家の定評ある名作・知られざる傑作をSF黎明期の1950年代から年代順に収録」していくのがコンセプトで、全6巻で構成。その第3巻「SFの浸透と拡散」に、式貴士の「われても末に」が収録されます。この作品は、1999年に発売されたアンソロジー『現代ホラー傑作選第7集 愛の怪談』(高橋克彦・編、角川ホラー文庫)にも収録されたこともある、センチメンタリズム短篇です。

この全集は、このブログでも以前紹介した事のある『日本SF全集・総解説』(日下三蔵・著、早川書房)と連動した企画で、あとがきでも刊行が予告されていました。日本SFの創世記から現在まで幅広い作家を網羅した、錚々たるラインナップで、この中に式貴士の短篇が収録されるのはとても嬉しいニュースです。

第1巻の発売は6月中旬。第3巻が発売されるのはもう少し先のことになると思いますが、非常に楽しみです。

●出版芸術社の「日本SF全集」告知サイト
http://www.spng.jp/sf.html

日本SF全集・総解説Book日本SF全集・総解説

著者:日下 三蔵

販売元:早川書房
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2008年4月 4日 (金)

「SFマガジン」に式貴士の名前が!

「SFマガジン」2008年5月号(3月25日発売)に、光文社文庫『怪奇小説コレクション カンタン刑』の書評が掲載されていたことを、石川誠壱さんから教えていただきました。書評コーナー「SFブックスコープ」の風野春樹さん担当分のところで取り上げられています(122頁)。

7作品をまとめて紹介するスタイルなので、文章自体は短めですが、「SFマガジン」の書評で取り上げられたということが、とても意外で嬉しいことでした。「えげつなさとロマンティズムを兼ね備えた式作品は、ホラーが市民権を得た今こそ先駆者として評価されるべきだろう」と書かれています。

往年の式ファンは、長いあとがき等でご存知だと思いますが、式貴士が現役で書いていた頃、いわゆるSF文壇的なところでは、ほとんど注目されなかったそうです。当時の日本SFではマイノリティだったエロ、グロ、ナンセンスの作風、著者自身が多人数との人付き合いを嫌ったためSF関係者と交流がほとんどなかった、等々、色々理由はあったようですが……。特に、「SFマガジン」とは、生前(そして、おそらくその後も)全く接点がなかったと思います。

ひょっとしたら、今回の書評で初めて、「SFマガジン」に「式貴士」の活字が載ったという可能性も大きいんじゃないでしょうか(『鉄輪の舞』発売時に、書評が掲載されているかもしれませんが)。そう考えると、とても感慨深いものがあります。
※4月6日追記。石川誠壱さんからコメントで指摘いただきましたが、「SFマガジン」で連載された、日下三蔵氏のコラム「日本SF全集 第3期」(2005年10月号)で取り上げられていることをすっかり忘れていました。上のくだりは間違いです。失礼いたしました。

それにしても、文庫で3つも書評が掲載されるとは驚きです。「週刊大衆」「SPA!」「SFマガジン」と雑誌のジャンルがバラバラなのも式貴士らしい気がします。本当に有り難い限りです。今の読書界に、式貴士がある程度受け入れられた証拠ではないかと思っています。

●風野春樹さんのサイト「新・サイコドクターあばれ旅」(下記サイトでの更新は終了)
http://homepage3.nifty.com/kazano/

S-Fマガジン 2008年 05月号 [雑誌] Book S-Fマガジン 2008年 05月号 [雑誌]

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2008年3月14日 (金)

「週刊SPA!」に書評が掲載されています

現在発売中の「週刊SPA!」(3月18日号)に、『怪奇小説コレクション カンタン刑』の書評が掲載されています(レビューコーナーのコラム「南陀楼綾繁の『文庫1冊決め!』」にて。P121ページに掲載)。

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執筆されているのは、フリー編集者・ライターの南陀楼綾繁さんです。タイトルは「平山夢明の先駆者が放つSF=ストレンジ・フィクション」で、「カンタン刑」をめぐる考察や、本書の構成などについて書かれています。南陀楼氏は、中学生の時に「カンタン刑」を読んで吐きそうになった思い出があって、今回の文庫で久しぶりに式作品に触れたそうです。「久しぶりに読み直してみて、アイデアの意外性と文章の上手さに感嘆した」と書かれています。

ミステリ・SFプロパーでない方のレビューで、しかも「週刊SPA!」というメジャー誌への掲載ですから、二重の驚きと嬉しさがあります。ぜひ本屋でチェックしてみてください。

●南陀楼綾繁さんのブログ「ナンダロウアヤシゲな日々」
http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/

カンタン刑   式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)Bookカンタン刑 式貴士 怪奇小説コレクション (光文社文庫)

著者:式 貴士

販売元:光文社
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『新世界より』に「カンタン刑」が?

『黒い家』『青い炎』の貴志祐介氏による、3年半ぶりの書き下ろし小説『新世界より』を読みました。上下巻で1000ページを超えるボリュームで、しかも内容は本格SFファンタジー。『クリムゾンの迷宮』等、これまでもSFぽい作品を書いてきた著者ですが、世間的には映像化に恵まれたホラー作家という位置づけだったと思います。前作『硝子のハンマー』で本格ミステリに挑戦した時も意外だなと感じましたが、今度はそれ以上の驚きがありました。楡周平が『青狼記』を発表した時(これも傑作です!)に匹敵するぐらいの衝撃で、ジャンル外の挑戦でいきなり大作をものにしてしまう筆力に脱帽です。

で、ここからが本題なのですが、読んでいて「アレッ」と思った箇所があったので、ちょっと紹介しておきます。

(前略)少し前から、まわりで数種類の虫が美しい声で鳴き出していた。このあたりには、草むらもないのに、何がいるのだろうか。
「この虫は、何なの? 鈴虫とか?」
 わたしは、覚の背嚢に入っている、ニセミノシロモドキに訊ねた。
「ここで鳴いているのは、すべて、ゴキブリの仲間です。馬追蜚■(ウマオイゴキブリ)、邯鄲蜚■(カンタンゴキブリ)、鉦叩蜚■(カネタタキゴキブリ)などで、暗い洞窟の中で雌を求めるために……」

『新世界より(下)』(講談社)421ページ、10行目から16行目まで

※()内は、ルビ
※■は、虫+廉

この作品は巧みに漢字を組み合わせた造語で、独特な世界観を作っています。そこに上記のようにゴキブリが登場するのですが、「カンタンゴキブリ」という表記が妙に気になりました。「カンタン」と「ゴキブリ」ですから、どうしても「カンタン刑」を連想してしまいます。ひょっとしたら、貴志氏のお遊びで入れたんじゃないかと私は思っています。「SFマガジン」のインタビューによると、貴志氏は「ハヤカワSFコンテスト」に応募した過去もあるそうですから、式貴士を知っている可能性も高そうです。

ちなみに、物語のラストでとある登場人物が「カンタン刑」を思わせる刑罰を受ける描写もありましたが、これは偶然の一致でしょうね。

新世界より 上Book新世界より 上

著者:貴志 祐介

販売元:講談社
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新世界より 下Book新世界より 下

著者:貴志 祐介

販売元:講談社
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