『SM博物館』の秀逸な書き出し
蘭光生『SM博物館』の発売から3週間余り経ち、出足は好調と編集者の方から伺っています。蘭光生ファンやこの手のジャンルに興味のある方に手にとっていただけているようで、嬉しい限りです。
今回は、各項目の書き出しをご紹介します。これが非常に秀逸で、冒頭から読者をつかむ魅力的な文章になっているんです。個人的には、「鞭」の書き出しが好きですね。ジャンル外の人にも読んでもらおうと、著者が拘って書いていたことが窺えます。
来月に入ると、文庫の新刊コーナーから姿を消してしまいますので、興味のある人は早いうちに書店で探してみてください(大きな書店の新刊コーナーには、大抵置いてあると思います)。
●「猿ぐつわ」(※厳密には「布」の項)
釣道楽のマニアの言葉に「釣りは鮒釣りに始まり鮒釣りに終る」というのがある。その昔、「風俗草紙」に『猿轡雑考』を書かれた高月大三氏にお会いしていた時、氏はこんなことをいわれた。「猿ぐつわは豆しぼりの手拭に始まり、豆しぼりの手拭に終る」と。
●「鞭」
本格ミステリー小説の醍醐味はやはり<密室>にあるように、本格のSM小説にとってかかせないものは<鞭>だろう。
●「浣腸」
“失神小説”という名称がある。これ式にいうと、いまや隠れたベストセラーの団鬼六の『花と蛇』は、さしずめ“浣腸小説”ということになりそうだ。
●「切腹」
SMの行きつく所は“死”である。
この意味で、世界に類を見ない、日本独自の奇妙な風習<切腹>は、SMの極致であるともいえよう。
●「磔(はりつけ」
その昔、罪人は地面に打たれた杭に四肢を固定され、釘で打ち殺されたという。
やがて、衆人にさらしやすくするためか、木や板などにはりつけられ、投石で打ち殺されるようになったといわれる。
●「褌(ふんどし)」
三島由紀夫が割腹自殺を遂げた時、軍服の下には六尺褌一つしか身につけていなかったという。
三島の褌フェティシズムは有名であった。その彼に、いかにもふさわしい死装束であったといえる。世に<浣腸>マニアが存するように、<褌>マニアというものがある。
●「縄」
縄——SMファンにとって、なんという快い響きをもつ語だろうか。限りない夢と郷愁。現実と空想の世界をつなぐ唯一にして最大の媒体。
縄なくしてサドもマゾもあり得ない。SMの世界を束ねる要であり、SMの世界に達する原点にこの<縄>がある。
![]() | SM博物館 (河出i文庫 ら 1-1) 著者:蘭 光生 |
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