『新世界より』に「カンタン刑」が?
『黒い家』『青い炎』の貴志祐介氏による、3年半ぶりの書き下ろし小説『新世界より』を読みました。上下巻で1000ページを超えるボリュームで、しかも内容は本格SFファンタジー。『クリムゾンの迷宮』等、これまでもSFぽい作品を書いてきた著者ですが、世間的には映像化に恵まれたホラー作家という位置づけだったと思います。前作『硝子のハンマー』で本格ミステリに挑戦した時も意外だなと感じましたが、今度はそれ以上の驚きがありました。楡周平が『青狼記』を発表した時(これも傑作です!)に匹敵するぐらいの衝撃で、ジャンル外の挑戦でいきなり大作をものにしてしまう筆力に脱帽です。
で、ここからが本題なのですが、読んでいて「アレッ」と思った箇所があったので、ちょっと紹介しておきます。
(前略)少し前から、まわりで数種類の虫が美しい声で鳴き出していた。このあたりには、草むらもないのに、何がいるのだろうか。
「この虫は、何なの? 鈴虫とか?」
わたしは、覚の背嚢に入っている、ニセミノシロモドキに訊ねた。
「ここで鳴いているのは、すべて、ゴキブリの仲間です。馬追蜚■(ウマオイゴキブリ)、邯鄲蜚■(カンタンゴキブリ)、鉦叩蜚■(カネタタキゴキブリ)などで、暗い洞窟の中で雌を求めるために……」『新世界より(下)』(講談社)421ページ、10行目から16行目まで
※()内は、ルビ
※■は、虫+廉
この作品は巧みに漢字を組み合わせた造語で、独特な世界観を作っています。そこに上記のようにゴキブリが登場するのですが、「カンタンゴキブリ」という表記が妙に気になりました。「カンタン」と「ゴキブリ」ですから、どうしても「カンタン刑」を連想してしまいます。ひょっとしたら、貴志氏のお遊びで入れたんじゃないかと私は思っています。「SFマガジン」のインタビューによると、貴志氏は「ハヤカワSFコンテスト」に応募した過去もあるそうですから、式貴士を知っている可能性も高そうです。
ちなみに、物語のラストでとある登場人物が「カンタン刑」を思わせる刑罰を受ける描写もありましたが、これは偶然の一致でしょうね。
![]() | 新世界より 上 著者:貴志 祐介 |
![]() | 新世界より 下 著者:貴志 祐介 |
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